富士山
草野心平
川面に春の光はまぶしく溢れ。
そよ風が吹けば光たちの鬼ごっこ。
葦の葉のささやき。
よしきりは鳴く。
よしきりの舌にも春のひかり。
土堤の下のうまごやしの原に。
自分の顔は両掌の中に。
ふりそそぐ春の光りに却って物憂く。
眺めていた。
少女はうまごやしの花を摘んでは巧みな手さばきで花環をつくる。
それをなわにして縄跳びをする。
花環が円を描くとそのなかに富士がはひる。
その度に富士は近づき。とほくに坐る。
耳にはよしきり。
頰にはひかり。
中1の頃に出会ったこの詩で、草野心平が大好きになった。
当時の国語の先生と文芸部を作った。
懐かしい詩。